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  • 2012.10.3

証券会社の世界のRTB

かつては証券マンの熱気であふれた金融の中心地、東京・日本橋兜町(かぶとちょう)が様変わりしている。株式市況の長期低迷やネット証券の台頭、超高速取引の普及などで中小証券は経営が成り立たなくなり、業態変更や廃業が相次いでいるのだ。ピーク時の91年に17万人を超えた証券マンも、今では8万8506人(12年6月時点)とほぼ半減。街の風景も一変している。【浜中慎哉】

 ◇IT化、証券会社が副業でカフェ

 「ご注文は?」「アイスカフェラテを」。日差しの強い平日の正午過ぎ。兜町に近い日本橋の交差点に面したカフェ「赤木屋珈琲(コーヒー)」では、サラリーマンや女性会社員が昼休みのひとときを過ごしていた。

 無垢(むく)材を使ったカウンターなどおしゃれな内装と自家焙煎(ばいせん)コーヒーが人気の同店を経営するのは、証券会社の赤木屋証券。1922年創業の老舗で、自己資金で株の売買などを行い収益を上げる「ディーリング」を中心に証券業を続けてきたが、近年は業績が低迷。3年前に約110人いた社員は、希望退職などで30人ほどに激減した。本社ビルにカフェをオープンさせたのは昨年10月。「本業以外の収益源確保と、お世話になった地域への恩返し」が目的だ。上田宗行常務取締役は「中小証券がもうかる時代ではなくなった。カフェ以外でも収益源となる事業を探している」と話す。

 業界では中小証券の業態変更や廃業が後を絶たない。今年3月、創業79年の十字屋証券が投資顧問会社「十字屋ホールディングス」にくら替え。5~6月には老舗の室清(むろせい)証券と金山証券が他社に事業を譲渡し、姿を消した。日本証券業協会によると、加盟証券会社は8月20日現在276社と、08年のピーク時(325社)から15%以上減少。空き店舗が目立ち、跡地にはマンションが建ち並ぶ。証券マンの間では「あそこも店をたたむらしい」とのうわさが日々語られる。

 99年の売買手数料の完全自由化以降、個人投資家は手数料が格安なネット証券に移り、対面販売が売り物の旧来型の経営手法は完全に「時代遅れ」になった。大手のように法人営業に頼れない中小証券は、自己売買によるディーリングに活路を求めたが、それも東京証券取引所が10年に新しい株売買システム「アローヘッド」を導入すると難しくなった。コンピューターが自動的に株式売買注文のタイミングや数量を決め、1ミリ秒(ミリは1000分の1)以下という高速で注文を繰り返す取引が主流になり、目利きの証券マンが「人間の目」で割安株を探して買い、割高になると売って利ざやを稼ぐ昔ながらのディーリングが通用しなくなったのだ。ある証券幹部は「中小証券が稼ぐ最後のとりでもなくなった」と漏らす。

 東証が来年1月に大阪証券取引所と経営統合し、日本取引所グループを発足させるのを機に中小証券の廃業は一段と加速しそうだ。証券会社約100社が持つ非上場の東証株が、統合により日本取引所グループの上場株に置き換わり、株売却が容易になるためで、関係者は「日本取引所株を売って社員の退職金が確保できれば、廃業したいと考えている会社は多い」と話す。

 8月には大手のSMBC日興証券が本社機能を兜町から都内の別ビルに移し、さらに寂しくなった。喫茶店で働く40代の男性は「町が閑散とし、うちのような個人経営の店も10年前の3分の1に減った」と困惑顔だ。


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